(1)本研究ではまず、「少数派の権利」論の枠内に、女性や高齢者・障害者等、他の少数派集団からのアイデンティティー要求を包摂しようとする、ヤング・ガットマンらの所説を、キムリカら既存の「少数派の権利」論の変化とも対応させながら分析した。同時に、本研究では、こうした「少数派の権利」論の多様化を承けて、第二世代リベラルに対してその外部から提起された理論的批判を、第一世代リベラル、共同体論、完全自由主義、ポストモダン、という四類型に整理し、その2000年代における変化や、リベラル第二世代からの各類型に対する反批判等と関連づけて分析した。その結果、1)ヤングらの少数派理論は、社会内の特定主体の意図に還元不可能な、きわめて構造化された社会的抑圧の所在を前提とし、その被抑圧対象すべてを集団理論に包摂する点に特色があること、2)その意味で、ヤングらの議論は、社会内の構造化された抑圧の所在に着目する、ポストモダンの批判との親近性を強く有していること、3)こうしたヤングらの諸批判に対抗して、キムリカ理論にも、近年の理論では、高齢者や障害者等に対して、文化集団と同様のアイデンティティーの所在を認めるという、重要な変化が生じつつあること、等の重要な知見が得られた。 (3)さらに本研究では、現代アメリカ・リベラリズム論争の議論を、20世紀初頭以降のアメリカ・リベラリズムの歴史的展開や、現代アメリカの隣接諸科学の動向と対比し、論争の思想史的位置付けを検討した。その結果、1)現代アメリカ・リベラリズムの議論には、移民が急増し、文化集団のアイデンティティーが急速に動揺した、戦間期アメリカ・リベラリズムの議論に親近性を有していること、2)こうした現代アメリカ・リベラリズムの動向は、現代アメリカの隣接諸科学の議論とも、従来想像されていた以上に深い関連性を有していること、等の新たな知見が得られた。
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