(1)本年度はまず、「少数派の権利」論の実践的応用過程に関する研究の第二として、2000年代以降顕在化した、「少数派の権利」論とナショナルな社会統合との関係を巡る諸問題した。その結果、1)議論の中心地北米では、2000年代前半には、「少数派の権利」論が少数派集団相互の政治的対立を可視化し、ナショナルな社会統合を困難にするという立場と、逆にそれが政治的討議を活性化し、社会統合の基礎を提供するとする立場との、抽象的・哲学的な論争が展開された、2)2000年代後半には、かかる社会統合の可能性を、言語等の具体的政策過程に即して論じる議論が台頭し、その結果として、討議民主主義理論やシティズンシップ論などと「少数派の権利」論との融合・接近が進んだ、等の重要な知見が得られた。 (2)更に本年度は、本研究の知見を日本社会に対して応用するための研究として、20世紀以降の日本におけるりベラリズムの史的発展、とりわけ、第二次大戦以降における議論の特質を検討した。その結果、1)戦後日本のりベラリズム論の諸系譜の中では、欧米の議論と同様の極めて具体化された「少数派の権利」に関する制度的提言は極めて希薄である、2)しかしながら、丸山真男・大塚久雄氏ら戦後啓蒙の諸論者の議論の中には、近年シティズンシップ論との融合化傾向が顕在化する中で、「少数派の権利」論者もそれを支持する、政治的多元性・多様性の擁護、とりわけ少数者保護を通じた多元性擁護への抽象的な関心・議論が多数散見されること、等の重要な知見が得られた。
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