本研究は、丸山真男の政治思想の思想史的研究を試みるが、そのさい単なる印象や記憶力に頼るのではなく、デジタル・テキストによる網羅的な分析によって、丸山の政治思想の構造と軌跡を把握し、その全体像を明らかにしようとする。具体的には丸山の全著作をテキストファイルにして、鍵となる語の使用例、使用頻度、文脈、そしてその変遷を検討しようとする。『丸山眞男集』全17巻、『丸山眞男座談』全9冊、『丸山眞男講義録』全7冊、『丸山眞男書簡集』全5巻の全頁をスキャナで撮影し、その画像をOCRソフトで文字認識していく。 本年度は、謝金による研究補助を得て、テキストファイルの作成に傾注してきた。著作権の侵害が生じないように、テキストファイルを借りることも貸すこともできないし、信頼できる研究補助者を探すのも容易でない。しかもどれほど丁寧にOCR処理されたテキストファイルでも0.1%程度の誤読文字が残るので、1巻ずつ点検の作業をするのが想像以上に大変だった。どれだけ人手があっても、自分でしなければならないことは尽きないという当然のことを確認した。ともかく丸山の著作のテキストファイル作成を着実に進めてきた。 さて、本研究は、もちろん丸山の著作の網羅的分析に終始するものではなく、日本の社会科学史とくに政治学史の文脈に注目して、丸山の政治思想の全体像を解明しようとする。そのさい丸山が1950年代に米国の政治学を大いに吸収したこと、1960年前後に米国の社会学者と接触して新しい視点を得たこと、そして1960年代以後米国訪問を通じて文化接触の観点から日本思想の古層を論じるようになったことなどへの着目から、米国での調査研究の必要を痛感し、カリフォルニア大学バークレー校に滞在して研究を進めた。とくに知識人としての普遍主義の要求がどのように生じたかに焦点を絞って、丸山の政治思想を考察している。
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