本研究は、丸山真男の思想史的研究を試みてきたが、そのさい丸山の著作のデジタル・テキストを作成し、その網羅的な分析によって、丸山の政治思想の構造と軌跡を把握しようとした。最終年度の本年度も、謝金による研究補助を得て、丸山の著作をスキャナで撮影し、その画像をOCRソフトで文字認識する作業を進め、既刊の丸山の全著作をテキストファイルにした。文字の誤認識がかなり残っており、各種著作を年月順に並べ替えることも容易でないが、それでも全著作の網羅的な検索ができるようになった。たとえば1946年の論文「超国家主義の論理と心理」は、1930年代後半に「軍部ファシズム」と対立した「重臣リベラリズム」に支えられた天皇制を批判した論文だったと1989年前後の丸山は回顧したが、その「重臣リベラリズム」批判が1940年代後半の著述に集中しており、その後ほとんど語られなかったのはなぜか。日本におけるファシズムの再興を丸山が警戒したのは1950年代末までであり、その後もずっと別の意味のファシズムには楽観的でなかったとしても、1960年代末の学生の乱暴に対して「ナチもしなかった」と言った意味は何か、そもそも何と言ったのか。本研究は、丸山の著作の網羅的な検索にもとづいて、また関係者への聞取りを重ねながら、そのような問題を解明してきた。非政治的な市民による戦後日本の民主化を構想した丸山は、日本社会でリベラルであるとはどういうことか戦後ずっと考えた人でもあり、他者をその他在において理解する知性を重んじた人でもあった。その丸山が考える自由と暴力との衝突について、また日本思想を捉えようとする丸山の知的挑戦について、研究を大いに進めた。
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