本年度の具体的な研究成果として、学会報告1件、共著2冊、翻訳書1冊を発表した。 学会報告「オークショットの〈偶然性〉の政治哲学」では、オークショットの作品を「偶然性」(contingency)の観念に着目して読み直し、そこにシュトラウスやジュヴネルとは異なったオークショット独自の政治哲学の立脚点を探りつつ、現代保守主義に残された可能性について考察した(論文「偶然性と政治-オークショットの場合」として政治思想学会編『政治思想研究』第8号(平成20年5月公刊予定)に掲載)。共著『悪と正義の政治理論』に寄せた論考「主体と臣民のあいだ〈リヴァイアサン〉における悪の政治学」では、シュトラウス、オークショット、ジュヴネルに共通する関心事項としてホッブズを政治哲学史上における-大転回点と考える視点があることを確認しつつ、『リヴァイアサン』で語られる「主体=臣民」(subject)の成立と消滅のロジックが近代政治思想の-大トピックであることを指摘した。またオークショットのホソブズ論集『リヴァイアサン序説』を全訳し、長文の解説「ホッブズとオークショット」を付して、オークショット政治哲学にとってのホッブズ解釈の意味について考察し、それがシュトラウスの独創的なホッブズ論との批判的対話のなかから形成されたものであることを検証した。日本イギリス哲学会編『イギリス哲学・思想事典』に寄せた項目「保守主義」では、イギリス保守主義の歴史を個人主義と共同体主義の緊張と相克の過程として提示し、オークショットの保守主義を前者の系譜の正統な政治理論として位置づけた。 本研究をつうじて、「自然」に依拠するシュトラウスとジュヴネルの政治哲学と「人為」に依拠するオークショットの政治哲学の違いが明白になった。これを政治哲学における「自然的正」と「コンヴェンショナリズム」の二つの伝統の対立として考察することを今後の研究課題としたい。
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