本研究は、20世紀を代表する三人の政治哲学者、レオ・シュトラウス、オークショット、ジュヴネルの知的営為を比較検討する試みである。この三者については、それぞれに内外研究の蓄積があるものの、相互間の言及・影響関係の解明はほぼ皆無であった。この研究史の欠落を補うべく、本研究は三者の共振する関係の中核となる主題として「政治哲学とは何か」「ホッブズ」「保守主義」の三点をあげ、現代における政治哲学の可能性と課題を考察する。3か年にわたる具体的な研究成果として、以下のような知見を得た。(1)政治哲学とは何か:シュトラウス、オークショット、ジュヴネルの営為は、いずれも政治哲学を「政治」と「哲学」との緊張・矛盾の観点から構想する点で、「政治」と「理論」の予定調和的な関係を前提する現在主流の「政治理論」とは明確に一線を画している。また特にオークショットとジュヴネルの間には、ターミノロジーを一部共有するなどきわめて緊密な思想的交流が確認されうる(訳書『シュラクサイの誘惑』、論文「ベルトラン・ド・ジュヴネルの政治哲学」)。(2)ホッブズ:三者はホッブズの『リヴァイアサン』を政治哲学史上における画期点とみなす点で共通する。シュトラウスとオークショットのホッブズ解釈は、四半世紀にわたる両者の哲学的会話の所産であり、おのおのの到達点の違いが両者の政治哲学の個性を決定づけている(「主体と臣民のあいだ」『悪と正義の政治理論』所収、解説「ホッブズとオークショット」訳書『リヴァイアサン序説』所収)。(3)保守主義:三者の政治的教義はいずれも保守主義に分類されるが、シュトラウスとジュヴネルがおのおの「自然」と「多元主義」のような伝統的な保守のトポスに訴えるのにたいし、オークショットの保守主義は歴史・共同体・人間行為の本質的な「偶然性」から説きおこされる点できわめて特異である(「保守主義」『イギリス哲学・思想事典』所収、論文「偶然性と政治」)。
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