二年プログラムの一年目として『政治脳』(分野によっては社会脳あるいはマキャベリ的知能)が、どのように政治的場面で駆使されるのかに関して、シミュレーションプログラムの作成に着手した段階である。プログラミングに際してはC++を使い、政治的場面を一つのゲームとしてとらえ、プレーヤーがどのゲームをどのような状況で選択し、どの程度の利得を得るかについて五万世代程度を念頭においてプログラミングを図っている。原則として両者の利得がゼロサムになるように作成されたハト派タカ派ゲーム(Hawk-Dove Game)と、参加者が協力関係を構築すれば公共財が創出され、利得が提供される参加者に提供される囚人のジレンマ(Prisoner's Dilemma with an Exit Option)の2種類のゲームを用いる。 その一方で、政治脳の駆使を「記憶」という変数としてとらえて、実際の世論調査に基づく実証研究にも着手した。その結果、わが国の有権者における政治知識に関する論文を発表することが出来た。この論文では、我が国における有権者の保有する政治知識の格差に着目して、その格差が投票行動や諸々の政治行動にどのように影響を与えているのかについて、有権者間の政治知識分布の検証を実施した。結論としては、民主主義制度を具現している投票参加行動あるいは政治知識の獲得といった場面では、「政治脳」は予想に反して駆使することはあまりない(つまりわが国の有権者の政治知識は驚くほど低い)ことが分かった。おそらく食料獲得(自然淘汰)あるいは異性獲得(性淘汰)といった切実な場面においた方が政治脳は駆使されているのであろう。
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