本研究計画の初年度にあたる平成17年度の上半期において、研究代表者は独立行政法人国際交流基金の実施する派遣フェローシップによってブラジル連邦共和国に滞在し、サンパウロ州立カンピーナス大学で客員研究員として「世界秩序の変動期におけるブラジルの安全保障」を主題とする研究に従事した。したがって本年度については、上記の研究との関連から、本研究計画の予備的な調査作業を実施するとともに資料の収集等に従事した。なお平成17年度の研究実施計画による具体的な実績報告は以下のとおりである。 ミドル・パワーの外交に関する予備的考察: 国際政治におけるミドル・パワー(中級国家、中堅国家)の役割は、冷戦時代から注目されてきたが、一般に米ソ両超大国中心の東西二極システムのなかで限定的であった。冷戦後の地域統合の進展において指導的な役割を担う地域大国としてブラジルは自らの戦略的重要性を認識して、南米域内の地域統合の推進に主導的な役割を果たすのみならず、他のBRICs諸国(ロシア、インド、中国)、さらに南アフリカなど他の地域大国との関係強化に努めている。かつてアジアNICsが工業化と輸出によって注目されたのとは対照的に、これらの国々は市場(=人口)や資源(=領土)などの経済的な潜在力をはじめ、地域を代表する政治的な発言力を有する地域大国として国際社会に政治経済力を投影しつつあり、対アフリカなど第三世界外交にも積極的に取り組んでいる。つまり、冷戦後のミドル・パワーの役割は積極的で能動的なものに変化している。
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