現代社会において持続可能性は追求すべき課題の一つであり、経済政策や社会政策など広く政策一般に求められる要素となっている。EUにおいても、環境政策は狭義の「環境」における持続可能性を実現しようとし、その要求を関連する他政策へも波及させている(拙稿「第6次環境行動計画の概略と方向性」)。このような方針をEU内で法律上最も明確かつ包括的に示しているのはEC設立条約第6条であり、それに実際に取り組んでいく意思を表明したのが1998年に合意された「カーディフ・プロセス」である。 環境政策以外の政策領域へ環境的配慮を取り入れていくカーディフ・プロセスは、理事会レベルでの調整をその主たる手段とするものであり、2004年に出されたワーキング・ドキュメントには農業、運輸、エネルギー、産業、域内市場、開発協力、漁業、経済・金融政策、貿易・外交政策における実績が示されていた。そのなかでも最も成功していると考えられているのはEU農業政策である。(最近では、あらゆる政策・行動に環境配慮を見ることができるが、それらすべてが厳密な意味でのカーディフ・プロセスとはならないようである。ちなみに、「拡大」の際にも環境への配慮は重要課題として盛り込まれているが、カーディフ・プロセスとは考えず、組織的にも扱いは異なっている。)地球温暖化問題のように複雑で総合的な対策を要する環境問題には、こうした政策の変革と工夫を施されることが不可欠であるが、例えばエネルギー政策や運輸政策に課題は多い。 EUにおける成功・経験という政策学的関心と同時に、EU内の持続可能性やカーディフ・プロセスの実践は、今後のEU、ヨーロッパ社会のあり方を映し出すものとしての研究関心を呼ぶ。これらをめぐる具体的な議論・政策・課題を明らかにしていくことが今後の作業となる。 3月末日時点では、準備作業にとどまる論文が公刊されているのみであるが、現在新たな論文作成にも取り組んでおり、別途公刊の予定である。
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