本年度は、持続可能な発展および環境統合の概念と実態をEUの公式資料を中心に調査・検討する作業を仕上げた。 環境統合とは、「他領域の決定と活動において環境への配慮を十分行っていくこと」である。EU環境政策における環境統合は、一般には第5次環境行動計画で優先政策事項として位置づけられ注目されるようになったが、第3次環境行動計画において既にこの文言は盛り込まれていた。EU環境政策とともにある、決して新しくない考え方なのである。基本条約においては、単一欧州議定書で環境政策に関する条文が初めて入り、そこに環境統合を勧める一節が登場した。1993年発効のマーストリヒト条約では「持続可能な発展」がEUの目的の一つとなり、1997年のアムステルダム条約からは環境統合に関する一節がEC条約第6条に格上げされた。ここで環境統合は、全体を覆う独立した条約上の義務となった。この環境統合が持続可能な発展を実現するための欠くべからざる要件、必要な手段として位置づけられていることは、各種の文書から明白である。 カーディフ・プロセスは、この環境統合条項を実行していくために打ち出された「異なった理事会フォーメーションがそれぞれの政策において環境への配慮を行う」ものである。2004年には『カーディフ・プロセスの実績評価』が公表されたが、決して順調な経過というわけではない。ここでは、一貫性の確保、政治的推進力、強力な実行推進とレビューメカニズム、明確な優先順位付けと焦点の選択、戦略的な先見性のあるアプローチが環境統合の成功に必要であると改めて指摘している。 環境統合に成果を出すことの難しさは、先行研究においても指摘されるところである。例えば、旧来の政策方針に馴染んでしまった組織の対応や既存の政策における利害関係者の反対などが環境統合の障害になっている事例が取り上げられた。そうした障害は、アクターの利益・行動傾向・嗜好や政策過程における権限・影響力、政策理念、政策慣行および制度に渡る広い視野を持った分析を必要とするものであり、改善策もその範囲に渡るということになる。それでもなお、新たな手法を開発し、制度・システムを変えることで、EUは環境統合をさらに推し進めようとしている。今後は、その試みの詳細を研究対象とする。
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