この研究は、東マレーシアのサバ州とサラワク州の華語教育に焦点を当てて、その歴史的変遷を分析することで両州の華人社会の歴史と現状、今後を明らかにすることを目的とする。 2006年(平成18年度)のサバ州とサラワク州でのインタビュー調査および収集した資料や文献を通して得られた知見は、以下のようにまとめられる。 サバ州とサラワク州は、半島マレーシアと同様に1960年代から「マレー語への同化政策、イスラム教の普及」が進み、70年代にはすべての公的教育機関での授業言語はマレー語のみとなった。両州の華人社会は自分たちの母語や文化を守るために、独自の私立高等教育機関(独立中学)を維持・発展させる道を選択した。ただ、サバの独立中学は半島マレーシアとも同じサラワク州とも異なる「三言語教育政策」を採択し、今日に至っている。三言語教育政策とは、英語、マレー語(国語)、華語の3言語を習得し、中学の後期課程ではとくに英語のレベル向上を図るという政策である。このようなユニークな政策を可能にしているのは、サバの歴史的・社会的な独自性であり、華人社会はこの政策を支持し、高い評価を与えている。 2006年(平成18年度)は、サバ州の新聞(The Sabah Times)を読んで当時の状況の把握と、インタビュー調査で得られた知見の裏付けを行なった。また、2007年(平成19年)2月17日にインドネシアのジャカルタで開催された日本東南アジア学会九州地区研究大会で、この2年間の成果を報告し、会員からの貴重なコメントをいただいた。
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