研究概要 |
税金・補助金、ないしは他の形における政策的介入が一産業ないし一地域を対象に敷かれた場合、その他産業・他地域への波及効果如何を可及な限り体系的に理論分析する、というのが本研究の大きな目標である。この一見単純なように思える理論分析には実は、少なくとも次のような二面が含まれる。第一義的には,政策的介入の産業間ないし地域間波及効果を、その対象産業等の経済的特性に鑑みつつ理論づけ、それを経済学者のみならず政策担当者・企業家などの実務家から見ても応用の利く形で体系化する試みである。更に、第二義的ではあるが極めて重要な点として、政策的意思決定の過程・組織構造、例えば世上しばしば論議の的となるところの所謂「縦割り」構造をどう捉え直すかという問題が含まれる。即ち、異なる産業ないし地域への施策は、異なった政策担当者あるいは部局により決定・運用されることが多く、このことは一見、各担当者がそれら対象地域・産業間の波及効果を考慮せず相互に不調和な政策を敷くことで社会厚生を殺ぐのではないかという懸念をはらむし、現にそのような論調こそが所謂縦割り行政への世間一般の批判に他ならない。而るにもし政策担当者の各々がその対象地域・産業の利益(のみ)を専ら代弁するなら、社会全体としての厚生が縦割りにより本当に減殺されるか否かは、見た目ほど自明ではあるまい。恰も、自社利益を追求する複数企業が相互利得を顧みず分権的意思決定により利己的に競争したほうが、独占的意思決定者の傘下に統一された場合よりも、社会全体の厚生にとって望ましい、という周知の競争原理と論理的に同型な結論が、複数の政策担当者に対しても当て嵌まるような状況が存在する可能性は、決して否定できない。そのような状況が如何なる条件の下に生じ、他の如何なる条件の下では逆に世間的な縦割り批判が正当となるか、の峻別を定性的に行なうことにより、どのような場合に縦割り施政構造を推奨し他のどのような場合にそれを断罪するか、という謂わば「政策政策」的提言に結びつける、というのが本研究目的の大きな特徴である。 4年計画に及ぶ本研究の初段階である平成17年度は、専ら租税理論、財政学、産業組織論、貿易理論などにおける既存文献を、特に政策的外部性という観点から詳細に読み直すことに充てられた。特にそれらのうち本研究に密接に関連する各論、即ち租税転嫁、政策競争などの理論モデルを、同観点に照らし再解釈ないしは必要に応じ改変、再構築することに重点をおいた。この過程でとりわけ重要な点は、既存諸論の数理的・技術的な特性よりも、寧ろそれらの政策的含意のほうに視点を置くという方針である。 従って同年度内における研究成果の刊行を急ぐことはせず、残る3ヶ年度への研究上の糧となるべき基礎知識の収集に主眼を置いた。
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