社会的再生産の構造が資本主義経済の動態に及ぼす影響を総合的に明らかにするという本研究の目的達成のために、3年間の研究期間の初年度に当たる本年度は、とくに社会的再生産の構造と金融システムとの作用・反作用関係に焦点を当てた分析を行い、以下の諸点を解明した。 1 銀行の一覧払い債務としての信用貨幣の創造について経済主体の行動に基づく発生論的な考察を行い、信用貨幣が経済主体の貨幣取扱費用の節約動機を動力として発生する点を明らかにした。こうした考察によって、信用業務と貨幣取扱業務との関係をどう理解するかという古くからの問題が明快に整理された。 2 信用貨幣の創造が再生産におけるどのような関係に基づいて可能になるかを考察し、均衡的に編成された再生産においては貨幣が出発点に還流するという法則、いわゆる貨幣の還流法則が成立することに基づいて信用創造の反復が可能になることを示した。 3 貨幣の還流法則を阻害する要因として固定資本の償却の問題に着目し、その問題がどのように解決されるかについて検討することによって、長期資金の媒介が信用創造機構の不可欠の一環となっていることを明らかにした。従来、信用創造と信用媒介とは独立した業務とみなされてきたのに対し、信用媒介に基づいて信用創造が可能になることが示されたといえよう。 4 以上の諸点をふまえつつ社会的再生産の構造と金融システムとの作用・反作用関係を分析し、固定資本が過剰化して長期資金の媒介がスムーズに行われなくなることによって、金融システム全体が崩壊する可能性があることを明らかにした。従来、商品過剰論に基づく恐慌論が信用関係を重視していなかったのに対し、商品過剰と金融システムの崩壊とが密接な関係にあることが解明されたわけである。 このような本年度の研究成果をふまえ、次年度以降は、崩壊した社会的再生産を再編する論理について分析を進めることにしたい。
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