研究概要 |
1 本年度は,まず,資本主義経済の動態のなかでも資本蓄積が停滞する不況期に焦点を当て,停滞が持続する原因を原理的に考察した。従来の資本過剰論による不況論では,恐慌によって産業予備軍が再形成されるにもかかわらず,停滞がなぜ持続するのかは十分に解明されてこなかった。こうしたなかで本年度の研究は,停滞の原因が労働市場ではなく商品市場にあることを次のように解明している。 すなわち,好況期の高賃金に対応して形成された再生産の構造は,たとえ産業予備軍が再形成されて賃金が下落しても,低賃金に対応した構造へとは容易に変化しない。それは,生産物の物的個別性に規定され,各部門の相対的な規模が容易に変化しないからである。そのうえ,停滞のなかで顕在化する固定資本の過剰は,生産手段部門の過剰を深刻化させる効果をもつ。このように過去の労働によって形成された再生産の構造が現在の市場の需給関係を規制する結果として,資本蓄積の停滞が生ずるのである。 2 また,本年度は貨幣生成論についても考察を進めた。価値形態論において一般的等価物がどのように形成されるかは,従来から難問とされてきた論点である。本年度の研究は,商品の物的耐久性に焦点を当てることによって,この問題に答える試みである。すなわち本研究は,商品所有者が在庫として保持する自分の商品をあらかじめ耐久的な商品と交換しておこうとする結果として,耐久的な商品が多くの商品所有者から交換を求められ,一般的等価物になるという論理をあきらかにしている。 3 以上のような研究成果をふまえ,最終年度となる来年度は,技術革新を契機として社会的再生産の再編がどのようになされるかについて考察し,資本主義経済の構造と動態の関係を総括することにしたい。
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