社会的再生産の構造が資本主義経済の動態に及ぼす重層的な影響を明らかにするという本研究の目的達成のために、三年間の研究期間の最終年度に当たる本年度は、技術革新に伴う社会的再生産の構造変化が労働市場にどのような影響を与えるかという点について分析を行い、以下の諸点を解明した。 1生産性の上昇は、生産過程に投入される生産手段量にたいし、それを使用する労働量の減少をもたらす。したがって、生産性の飛躍的な上昇をもたらす技術革新が生ずれば、既存の生産手段量が制約となって、雇用労働量は大幅に減少する。 2このことは、マルクスの説いた産業予備軍の累進的生産がどのような条件のもとで生じうるかを示している。すなわち、たとえば産業革命にみられたように、技術革新が比較的短い時間の幅で群生すれば、雇用労働量が継続的に減少し、産業予備軍が累積していくことになる。もちろん、技術革新の群生が終息すれば産業予備軍の吸収過程が始まるが、その再吸収には長い時間がかかる。 3産業予備軍の累進的生産から労働者の窮乏化を説いたマルクス蓄積論の問題点は、技術革新の群生が継続的に生ずるという特殊な想定を置いたところにある。とはいえ、技術革新が大規模で長期的な産業予備軍の形成と吸収とをもたらすとする理論的考察そのものは妥当であったと考えられる。 4以上の考察は、従来、原理論の対象外とされてきた長期的動態について、繰り返される法則的側面があることを明らかにしている。宇野弘蔵はマルクス蓄積論を批判して原理的動態論を短期的循環論に一元化したが、技術革新に伴う産業予備軍の形成と吸収は長期的動態論として展開されるべきである。他方、短期的循環は、本研究の第1・2年度に考察したように、不均等発展によって惹き起こされる事態とみなすことができる。こうして三年間にわたる本研究は、資本蓄積の原理的動態像を再構成する意味をもっている。
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