当初の計画では、技術進歩の発生による経済システム内の均等利潤率の変化に関する置塩定理の検討を本研究課題の参照系として設定していた。しかし、検討の結果、技術進歩の労働雇用条件および所得分配問題への影響に関する理論的考察のための参照系としては、リカードの機械化分析の枠組みが参照系としてより適していると考えるに至った。つまり、ポスト古典派の固定資本分析の特質はリカードの機械化分析の枠組みに集約されている。歴史的条件に開かれた与件としての所得分配の問題、中間投入・中間需要として経済システムの存続可能性条件の要をなす賃金部分、新技術を既存の財の組み合わせとして表現する接近方法、歴史的時間を反映し、前期から引き継がれる賃金財生産物の与件性、などである(「技術変化と労働雇用」)。 以下では、リカードの機械化分析の枠組み内で、研究計画の4つの論点に関する研究経過の中問報告をまとめておく(ただし、今回は論点1および論点3に関しては省略)。 論点2.本研究課題においてマクロレベルとミクロレベル以外の分析次元を必要とするか否かに関しては、技術進歩に伴う労働の熟練度問題の領域が興味深い視点を提供しうると考えている。アダム・スミスの分業論を嚆矢として、技術の進歩に伴う労働作業の単純化を危惧する場合も、あるいは新たに複雑な労働作業が発生すると反論するにしろ、労働の熟練度問題は、これまで、狭義の労働作業の熟練・未熟練を問題としてきた。しかし、15〜20年近く社会化のための教育課程を確立している日本では、技術進歩に伴う労働の熟練度問題は、社会の形成・参加という広義の労働熟練度の問題としてとらえ直すのが適当と思われる。この際、脳の学習モデル(特に発見的学習)と「成るもの」としての社会の形成・参加との関係を考えることが有効であると考える(「技術変化と労働雇用」の脚注部分)。 論点4.ポスト古典派接近法による取り扱いから得られる、資本の減価償却部分に関する理論分析の含意は、機械の効率性一定の場合、償却額と新規機械の価値額との比率を表す固定資本の中心係数は、直接応用できる規範的概念ではない、ということである(「「資本」と自己補填的構造」、「自己補填的構造、固定資本、そして所得分配問題」)。
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