スラッファの価格分析を基礎としたポスト古典派の生産システムでは、時間設定の特殊性によって、特有の構造が生みだされる。今期の生産能力が今期の需要を満たすという観点から、市場価格の参照系を確定するというのではなく、今期の生産能力が前期の需要を置き換えるという観点から、参照系としての正常価格を確定する。 このような観点から確立された価格体系は、経済システムの相互依存性を含むと同時に、消費行動と生産行動の性質の非対称性をも反映したものとなっている。非対称な性質を持った行動が織りなす相互作用の体系。このような特性を持った価格体系における固定資本の分析は、どのような分析含意を有するか、は本研究課題の一側面を形成する。 共時的時間の相のもとで、相互に連関し合う固定資本の取り扱いは、ウィクセルの葡萄酒のような固定資本の取り扱いまでさかのぼることができる。ウィクセルは、このようなある種の定常状態にある固定資本を取り扱う際、「重力の中心」なる概念を提出している。ポスト古典派接近法における固定資本の取り扱いでは、この「重力の中心」概念をより一般性のある問題設定のもとで再構成していると考えられる概念がある。本研究課題のもとで、これら二つの概念の関連性を探究してきたが、未だ完全には解明できておらず、この論点に関して探求は継続中である。 また、リカードの機械化分析をそれぞれの分析枠組み内で展開することで、ポスト古典派接近法と新オーストリアン接近法の比較検討も進めてきた。水平的相互連関は、財の非特定性によってもたらされるという面を持つ。他方、投下労働への垂直統合関係を特徴とする新オーストリアン接近法は、財(固定資本)の特定性を最大限重視する。そこで、これら双方の特性を併せ持つと見なせるアドルフ・ロウの移行過程分析を主に取り上げることで、両接近方法の相補完性の評価を試みた。
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