研究概要 |
本年度は、労働分配率の理論的基礎を明確にすべく、主として、1,熟練、未熟練、資本の3生産要素が考慮されたケインジアンとクラシカルの折衷的な中期マクロモデルの構築、および2,生産関数を通じた3生産要素間の非対称的な代替・補完関係の解明を中心に行った。前者は経済変動と各労働需要の関係、後者は経済の趨勢と技術選択を通じた各労働需要の関係の解明を通じて、中長期の各要素分配およびマクロ集計労働分配の変動要因を分析することに対応している。並行して、要素価格の変化と偏向的技術の生成、発明と技術フロンティアの関係、偏向的技術進歩と要素分配の関係、マクロ経済と分配に関する図書、論文、ディスカッションペーパー等を収集し文献整理を行い、さらには近接研究者と意見交換し、幾つかの得られた成果を日本経済学会や各種研究会で研究報告を行った。 得られた知見および成果として、1,資本と熟練の補完性が資本と未熟練の補完性より大きい資本・熟練補完という不均等な要素代替が存在する場合には、資本蓄積が進行する発展過程では、賃金不平等だけでなく熟練と未熟練の分配格差も拡大しうること、また、資本と未熟練に一層の代替性が付加されればマクロ集計労働分配も低落する可能性が生じうること、2,熟練と未熟練間の代替的であり、集計労働と資本が補完的であるような不均等な要素代替が存在する場合、熟練偏向的技術進歩は、熟練と未熟練の分配率に格差をもたらしうること、3,ケインズ的な需要サイドが経済を決定するマクロ体系において、資本・熟練補完性という不均等な要素代替性は集計労働分配率を景気順循環的な変動(不況期にマクロ労働分配率が低落)をもたらし、財市場の規制緩和は未熟練雇用の低落と未熟練分配の減少をもたらしうること等を明らかにしたことである。
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