研究概要 |
本年度は、主として生産関数を通じた熟練、未熟練、資本の3要素代替の非対称性と熟練労働分配率、未熟練労働分配率および集計労働分配率の関係の一層の解明を中心に、新たに相対賃金の変化によって労働供給サイドで労働移動が生じた場合の各労働分配率の変化に焦点を当てて分析を行った。並行して、集計要素代替および要素増大的技術と分配の関係、技術変化が生じた場合の人的資本の形成や職場編成の変化による労働者の適応性等に関する研究図書、論文、ディスカッションペーパー、およびデータの収集、近接研究者と資本蓄積を通じた規制緩和と労働分配の関係の動学的分析に関する共同論文の作成、さらには研究成果の一部を日本応用経済学会やセミナー、研究会にて研究報告等を行った。 得られた知見および成果として、1,技術の新編成によって、未熟練と資本が代替的で熟練と資本が補完的な関係が併存する生産構造下では、熟練偏向技術の増大や資本蓄積は熟練分配を引き上げ、未熟練分配を引き下げる意味で分配格差を拡大させ、マクロ労働分配率を引き下げる帰結が得られたのであるが、それに加えて相対賃金の変化に反応して労働者が部門移動するような拡張した枠組みでは、熟練偏向技術の増大、資本蓄積、両者とも賃金格差を拡大させるので、中長期的には熟練部門により労働移動を引き起こすのであるが、労働移動の分配への帰結に関しては、熟練偏向技術の増大は分配格差の拡大を緩和させ集計労働分配の低落を緩和させうるのに対して、資本蓄積は分配格差の一層の拡大と集計労働分配の一層の低落を引き起こすという対称的な帰結が得られた。さらに2,規制緩和と動学モデルとの関連では、資本蓄積を通じた動学過程では規制緩和が失業を生じさせ、労働分配率を引き下げる可能性があること等を明らかにした。
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