本年度は、労働移働が生じる枠組みを中心にして、コンピューター化等の新技術の変化や、資本が変化した場合に、熟練と未熟練間の所得格差やマクロ労働分配率の推移がどうなるかを、資本、熟練、未熟練の3要素間の代替の非対称性や人的資本の形成や陳腐化、さらには、第3次産業の拡大といった部門間の変化にも注目しながら、日本と欧米各国の現状を踏まえて、分析を進めた。研究図書、論文、ディスカッションペーパーおよびデータの収集をし、近接研究者と研究打合せをし、研究成果の一部を日本経済学会や数理経済研究集会等にて研究報告を行った。 成果として、中長期的に労働移動がある場合に、生産サイドに資本と熟練の補完性の方が資本と未熟練の補完性より大きいような資本・熟練補完性があれば、熟練偏向技術という新技術や資本の変化によって賃金格差が拡大し、その結果、熟練部門に労働が移動するが、そのような環境下で、資本の増加は労働間の所得格差を一層拡大させ、新技術の変化はマクロ労働分配率をより低落させうることを明らかにした。日本では近年、所得格差が拡大する中、マクロ労働分配率が低落する傾向にあり、不均等な要素代替と新技術の普及がその要因の一端であることを伺わせる。また、資本・熟練補完性があれば、労働移動によって、資本と労働全体との間の集計要素代替が拡大する結果、資本労働比率が上昇する成長過程では、労働分配率は低落することを明らかにした。第3次産業の部門間拡大に関しても、同様のメカニズムによって、労働分配率は低落する可能性があることを、目下、分析している所である。
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