17年度においては、欧米マルクス学派の実証分析を分類するとともに、その理論的な課題について検証した。学派ごとに明確に分類できるわけではなく、同じ学派に分類したものの中でも多々異なっている点があるものの、1新解釈派(論者:Dumenil、Foley、Levy)、2新解釈派に近いもの(論者:Mohun、Moseley)、3正統派に近いもの(論者:Shaikh、Kalmans、Wollff)を随時検討した。 上記のうち1および2に属するものは、いわゆるシングルシステムアプローチを採用しており、日本のマルクス学派とは対照的である。シングルシステムアプローチにおいては、一般的な方法よりも、剰余価値率、資本の有機的構成、生産的労働の比率を比較的簡単に算出できるので、実証分析に適用しやすいという特徴を持っている。こうして算定された剰余価値率、資本の有機的構成、生産的労働の比率から利潤率の推移を説明するが、これは近代経済学にはないものだけに貴重である。しかしシングルシステムアプローチは従来の方法とは違うだけに、それが持つ理論的整合性については厳しく検証される必要がある。この点を検証した結果が、「欧米マルクス学派の実証分析にかんする一考察」(東)である。 一方、欧米にも従来の方法に近いツールを使った分析は存在する。その場合、剰余価値率は実現された価格単位と生産に投下された価値(の価格表示)の二種類で算出される。この場合、生産において対象化された労働が実際にどのように評価されて市場に現れるのかということを表現できる。とりわけシングルシステムアプローチでは、労働生産性の変化がそのまま価格として現れてしまうため、生産性の上昇が価値を低下させるというメカニズムが捨象されてしまう危険性がある。この点に関しては17年度には成果として発表できなかったが、18年度の早い時期に佐藤が発表する予定である。
|