交付申請書に記載したように、本研究はマルクス経済学の利点を活かした実証分析を行うことである。とりわけ19年度は、利潤額、固定資本額の確定を行う予定であったが、残念ながらすべてを終了することはできなかった。それはいくつかの困難があったからである。まず利潤についてであるが、これは国民経済計算における営業余剰といくつかの点で異なっているが、この点をより明確にしなければならなかった。18年度において、生産的労働と不生産的労働の区別、生産的部門と不生産的部門の区別などの理論的な区分は行ったものの、混合所得や帰属収入などの考え方についての考察が遅れてしまった。一方、固定資本についても会計上の減価償却が固定資本減耗を正しく表現していないことは多くの薪究者が指摘している。しかしこれに代わる概念と額の明確化が困難であった。 こうした理由から、実証分析を行う、という当初の目的を19年度中に果たすことはできなかったが、以下のような成果を得るとともに、今後につなげることができた。 まず、価値を実測することの困難性を明らかにするとともに、価格概念であってもいわゆる近経とは違う考え方ができることを明らかにした。それにもとづく実証分析の方法論を明確にすることができた。これについては、論文「投下労働量による剰余価値率分析の批判的検証とSingle System」として公表するに至った。 他方、今年度半ばに、一定の実証分析の成果を公表できるめどをたてることができた。19年度中という目標は遅れたものの、すでに研究誌、書籍などにおける公表に向けて具体的に動き出している。
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