1.アダム・スミスにおける貧困と福祉の思想について再検討し、とくに次の点を明らかにした。(1)スミスは富裕と貧困の本質を富(消費財)の絶対水準としてではなく、歴史的に変化し国民によっても異なる富の社会的必要量との関係における相対水準として捉えていたこと、(2)スミスは重商主義の低賃金の経済論と貧困の個入責任論を批判して、高賃金の経済論と貧困の社会責任論を主張したこと、(3)スミスの経済思想は、ほぼ同時期に福祉国家の古典的構想を発表したトマス・ベインの福祉思想と内容的に補完悶係にあり、スミスの経済思想はいわゆる福祉国家思想と必ずしも対立するものではないこと、である、この研究成果を経済学史学会第72回大会共通論題で報告した。 2.1990年代以降の日本における経済格差拡大の原図をめぐる諸研究をサーベイして整理した。格差拡大の主原因は時代によって変化しており、1990年代には少子高齢化説、2000年代初頭には賃金制度要因説(成果主義賃金など)、近年には非正規雇用拡大説が主に妥当するという仮説としてまとめた。
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