研究計画によれば、本年度の研究の主たる内容は、昨年度の研究の主たる内容として予定していた関西学院大学図書館に所蔵するオウエンズ・カレッジでジェヴォンズが行った経済学講義(1870-71)を受講した学生による筆記ノートで、井上が翻刻したものを、協力者であるモナッシュ大学のM.V.ホワイト氏にって点検・修正することであった。前者については、12月4日から8日までホワイト氏が来日し、その点検を行うことができた。現在、その整理をホワイト氏が行っており、求められている期限までには、完成版は困難にせよ、翻刻を完了する予定である。さらに、完成版の作成後、ホワイト氏と共同で、序文を作成し、海外の出版社から可能であれば公刊することになっている。現在検討中の出版社はAn 工mprint of Elsevier ScienceのResearch in the history of economic thought and methodologyシリーズである。 なお、今回の翻刻の過程で明らかになったことは、この関西学院大学図書館所蔵の受講ノート(1870-71)からマンチェスター大学図書館所蔵の受講ノート(1875-67)、さらにはロンドン大学のユニヴァーシティ・カレッジにおける山辺丈夫の受講ノート(1878-79)へと時を移すにつれて、講義でのジェヴォンズは当時の「権威」であったミル経済学の祖述から次第に離れ、ジェヴォンズ自らが研究し得た成果を授業にも反映していくことで、ミル経済学との葛藤を克服していったということが資料的に裏付けることがほぼ出来たということである。なお、今年度の成果として挙げた論文は、山辺の受講ノートの翻刻とマンチェスター大学での受講ノートとの比較についての旧稿を関西学院大学所蔵の受講ノートの検討内容を盛り込んだ形で公刊したものである。
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