近年、都市経済を牽引する産業として着目されるようになった創造的産業に関する理論枠組みの検討と、オランダと日本における創造的産業とそれに対応する文化政策や産業政策に関する現状調査を行った。 創造的産業とは、非営利的で創造的な活動と、営利的で単調な労働との結合であると捉えることができる。特に、その中心となる「創造性」の自律性を保ちつつ支援する政策が求められるため、従来の製造業を中心とした産業政策とは全くことなる分析枠組みが必要である。 オランダでは、近年、経済省と文化省との対話や、市レベルにおいても、経済部局、文化部局、都市空間部局が共同して創造的産業の集積や、必要とされる政策について検討を始めていることが分かった。都市における創造性を育む場としてのブリーディング・プレイス等の試みも開始されている。 日本においては、コンテンツ産業の研究においても、創造性という要素を取りあげてはいるものの、分析枠組みとしては従来の産業組織に近いものが多い。また、創造的産業は、創造性の自律性が高いため、独立したプロデューサーや小さな企業が水平的ネットワークを形成することが多いが、日本では、巨大流通企業が産業組織を垂直的に統合する傾向も強く残っていることが指摘されている。 かかる理論枠組みの検討や海外の調査とともに、本研究で開始した、伝統産業が多く存在する京都におけるクラフト的産業の調査では、従来流通を担ってきた問屋制が崩壊し、産業的危機ともいえる状況のなかから、若いアーティストと職人のコラボレーションを仕掛ける動き等の新しい芽が出始めていることが分かった。友禅などにおいて、産業組織の特徴が形成された歴史、現状、課題、新たなコーディネーションの仕組みなどを調査することによって、伝統産業という枠組みではなく、創造的産業として再考する手がかりを探りつつある。都市政策と結合した新たなコーディネーションの可能性について、更に探っていきたい。 また、創造性の自律性を保ちつつ支援する制度的枠組みの1つとして、税制にも視野を広げた国際比較研究に着手することができたことも、本年度の成果である。本研究の理論的枠組みに関しては、研究協力者であるA.Klamer教授を招請し、「創造的産業-文化経済学の視点から」というセミナーも開催した。
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