医師・患者の行動を、それもわが国の点数制度、あるいは医療保険制度を前提として、理論的に分析した。具体的には情報の非対称性を念頭に置きながら、契約理論を如何に我が国の医療保険制度に応用できるかをサーベイするとともに、既に我が国で研究されている研究論文をサーベイした。また、我が国特有の制度を理論分析に反映させるため、いくつかの病院を訪問し実際に医療従事者から聞き取り調査を行った。また、英国医療経済学研究グループとの研究交流を通して、医療経済学分野における情報の経済学の発展状況を確認してきた。特に英国国内では公的医療保険制度(NHS)が財政的に大きな問題を抱えているが、その処方箋として様々な政策がとられている。その処方箋の多くは制度に経済的インセンティブを与えるものであり、これらの実際の政策を吟味することによってどのような制度が我が国の保険制度に適合するかなどを考察した。ここで重要なことは実際の英国公的医療保険制度改革では経済的インセンティブを与えることが大前提となっている点である。すなわち、医師の利潤動機をも前提として制度改革を行っている点であり、現在はこのような視点から我が国の点数制度改革を考察している。 また来年度の研究につながるべき、理論分析をシミュレーション分析に応用できるよう実際のプログラムを作成しつつある。またそのシミュレーション分析をより現実に近づけるよう実際のデータを整理し、そのデータを元にパラメータの特定化を行っている。このカリブレーションには当分時間を要するが、来年度のシミュレーション分析に向けて必要不可欠であり、さらなるデータ整理を通してよりシミュレーション分析の精緻化を行っている。
|