研究課題
我が国の高齢化社会到来を念頭に、現実的な我が国の公的医療保険制度を分析に取り組み、将来の医療負担(国民医療費)が今後どのように変化するか、さらにマクロ経済にどのような影響を与えるかについて、シミュレーション分析を行った。そこでの大きな結果は次の通りである。まず、国民医療費を見た場合、対GDP比で考えるとその比は今後10年の間に1%増加し続け、2050年には約9.6%に達する。また、自己負担率を15%からそれぞれ20%、30%に上昇させた場合のシミュレーション分析を行った結果、微少ながらも国民負担率は低下した。また、自己負担率の上昇は老齢期における医療支出(自己負担分)を上昇させることから若年期に於ける予備貯蓄が上昇し、その結果、経済成長にはプラスに作用する。またこのようなプラスの効果を通して、自己負担率を20%に上昇させた場合には最終的には国民負担率は1%低くなる。また、自己負担率を30%に引き上げた場合は3%国民負担率は低下する。一方、理論分析では、我が国の出来高制による支払い方法は医療の過剰投与を誘発することが示された。一般的に過剰投与は薬価差益の存在が大きな理由とされているが、理論分析では薬価差益がなくても現行制度が出来高払い制である限り、過剰投与は避けることができない。また過剰投与が存在する場合、特に開業医は過小労働も引き起こす。すなわち、望ましい水準まで働かず、それによって失った収入を過剰投与によって賄っていることが理論的に示された。また、病院医のような勤務医に関しては過剰労働をも理論的に示すことができた。また、過剰労働がなされている場合、かならず医療サービスは最適水準以下になることも示された。したがって、もし2004年に導入された新研修医制度が特に地方病院の勤務医に過剰な労働を強いている大きな原因とすれば、その影響は単に勤務医の過剰労働だけでなく、医療全体のサービス水準の低下に結びついている可能性がある。
すべて 2006
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Tackling Japan's Fiscal Challenges : Strategies to Cope with High Public Debt and Population Aging, IMF,Palgrave Chapter 3
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