本研究では、はじめにわが国における医療関連人的資源配置の実態、特に看護師の需給問題について、文献およびヒヤリング調査を実施して、基礎的な情報を整理し、問題点を抽出した。つづいて、在宅医療における医師、看護師の役割分担、および地域特性を考慮した資源投入の実態(ケア提供時間や1日の訪問件数、投入される医師、看護師の数、人的資源の不足感と不足している資源の種類など)について質問紙を用いた調査を実施した。特に、資源の不足やミスマッチの状況について、それを改善するために必要なコストの「支払い意志」という尺度を用いて、具体的に評価した。研究結果として、1)わが国の看護師需給が病院(病床)を基本として議論されているため、実際には地域および在宅における看護サービスへのニーズがただしく捕捉されず、またニーズ自体も顕在化していないため、看護師需給実態と統計との乖離を生んでいること、2)東京都心部で在宅における高度医療に取り組んでいる医師グループの診療実態、および関西圏で総合病院をベースにした在宅医療の実態を分析した結果、介護系のケアにおいてはそれほど強い人的資源の不足は認識されていないものの、医療依存度の高い在宅ケアの提供においては、能力の高い医師や看護師の不在、またリハビリ要因の不足が質の高い在宅医療の進展を阻害している可能性が示唆された。以上から、さまざまな医療機関が多様な医療水準の患者を包括的にサービス提供対象としている現在の状況では、どうしても医療従事者の不足や偏在が生じてしまため、地域ごとに医療依存度、必要とされる医療の水準に応じて対象患者をグルーピングし、高度医療を必要とするグループに医師や看護師を重点的に配置するいっぽうで、介護主体のグループには介護福祉士、ホームヘルプなどの資源を集約するような地域的コントロールの必要性が示唆された。
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