本研究は、観光を中心としたまちづくりを行うための方策を検討したものである。現在では衰退した地方港湾都市における地域経済活性化を計るために、港湾の持つ歴史的文化遺産に注目し古い町並み等を活用し賑わいを創出することを目的とする。このような地域資源の活用による、内発的発展に基づくまちづくり研究の事例は、局地的でありまた手法も限られており、まだまだ少ない。さらに、多くの地域では内発的発展の手法と在来型の開発手法の不一致や相克、地域住民の意識や行政組織の問題によって、まちづくりはうまくいっていないのが実情である。 このような実情について、本研究では数多くの港湾都市で実態調査を行い、成功や失敗の事例について詳細に比較検討することで、その原因を解明し、自律したまちづくりへ向けての具体的方策を見出した。特に、研究対象地域である歴史的遺産を活用した観光によるまちづくりでは、地域資源としての景観保全が重要な問題となる。この問題については、地域の歴史的価値を他ならぬ住民自身が理解し、地域経済における観光の役割を認識し、景観保全に対する意識を持つことが重要である。 そしてその課題への合意形成をいかに進めて行くかが課題として抽出された。それにはまず観光による町づくりのビジネスモデルを地域住民全体に判りやすく提示し参加させることが必要である。その際に地域住民組織を動かすには地域リーダーの存在が重要であり、今はまずそのような人材の育成が急務である。また景観に対して住民意識が低い状態では、必ずしも伝統建築物の完全な保全にこだわる必要はない。むしろ景観形成という形での妥協を図り柔軟な対応をしつつ、意識醸成を待つという方法がベターであることが実態調査より導き出された。
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