研究概要 |
為替レートの物価浸透率(exchange rate pass-through,為替レートが1%変化する結果生じる国内物価の変化率)は国内経済と国外経済との繋がりを体現する重要な係数であり、その値は開放経済の理論モデルの妥当性や現実の経済政策の有効性を考察・評価するにあたって極めて大きな意味を持つ。本研究では金融政策やインフレーションを始めとするマクロ経済環境の変化と為替レートの物価浸透率の関係に関する所謂Taylor仮説の正当性を実証的に検証することを目的とする。具体的な検証事項は以下のとおりである。 1,ブレトンウッズ体制崩壊後今日までの間に多数の先進国において実際にインフレーションプロセスに重要な構造的変化があったのか、またそのような変化は何時何回生じたのか。 2.実際に重要な構造的変化が見られた場合、それらは各国の金融当局による政策変更の結果として達成されたものなのか。 3.インフレーションプロセスの構造的変化が(金融政策の改善によって)もたらされた事に呼応して為替の物価浸透率もTaylorが主張するように実際に有意に低下したのか。 このうち今年度については主に第二段階の分析を実行した。具体的には文献等を通じてOECD加盟国の金融政策の歴史・変遷にっいて調査を行い、昨年度から進めているデータに基づくインフレ構造・環境の変革についてのテスト結果との関連性について考察した。これまで得られた結果によると、OECD加盟国の多くが少なくとも1980年代と1990年代のどちらかに一度は金融政策へのアプローチの重要な見直しや変更を行っており、しかもそれらがタイミング的にはデータから示されたインフレーションプロセスの構造的変化とある程度の整合性をもつことが分かってきた。
|