本研究では所謂Taylor仮説の妥当性を実証的に検証することを主たる目的として、金融政策やインフレーションを始めとするマクロ経済環境の変化と為替レートの物価浸透率の関係について分析を行った。OECD諸国のデータを使って行った実証分析結果の主たる結果は以下のように要約される。 1.構造変化の有無とタイミングを内生的に特定する検定を応用した結果、ブレトンウッズ体制崩壊以後2000年代初頭までの間に、多くの先進国において実際にインフレーション・プロセスに重要な構造的変化が生じたことが判明した。しかも、そのような構造変化を1980年代に1度、続いて1990年代にもう1度と、複数回経験している国が多く見られる。 2.OECD加盟国の多くが少なくとも1980年代と1990年代のどちらかに一度は金融政策へのアプローチの重要な見直しや変更を行っており、上記の構造的変化が確認された標本国の大半において、インフレーション・プロセスの構造変化は、当該国の金融政策にかかわる重要な変更に追随するようなタイミングで生じており、両者の間に因果関係が強く疑われる。つまり、金融政策の改善がインフレーション・プロセスの構造変化を生み出した可能性が非常に高い。 3.計量分析の結果、金融政策の改善がインフレーション・プロセスの構造的変化をもたらした事に呼応し、多くの標本国において為替の物価浸透率もTaylorが主張するように実際に有意に低下したことが判明した。
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