先進諸国で共通に広まりつつある格差・貧困問題の展開の中で、その対策としてのWelfare to Work戦略が注目されてきている。本研究は、日本でのWelfare to Work戦略を地域雇用政策と地域福祉政策との連携という視点から、特に労働市場の仲介組織の変化を重視して分析したものである。 まず、こうした事業の先駆として、大阪府における地域就労支援事業を見出し、その生成過程を分析した。2002年に開始されたこの事業は、就労困難者を地域の関連諸機関が個別的・継続的にサポートし、ハローワークに導いていく仕組みである。また。この生成のあり方は、この地域の雇用・生活問題の深刻さのみでなく、地域での労働・福祉行政の展開の経路にも依存していた。 次の分析対象は、日本で初の全国的Welfare to Work戦略の実現である、生活保護受給者等就労支援事業の2年半余りの経験である。東京労働局管内の結果については、就職率も相対的に高く、フルタイム比率も高い。この結果の要因は、有効求人倍率の高さのみでなく、技能を要する仕事経験を有するものが支援を受ける側(労働供給側)に多かったことも指摘できる。室蘭市・苫小牧市の事例では、国の事業については、必ずしも良好な結果(特に就職先)とはいえない結果であった。これは、地域で中核となる産業の性格にも強く影響されていると考えられ、また生活保護者自身の経歴が、東京地域とは相当程度異なる点も重要である。 また双方の地域とも、労働市場の仲介組織という点では、ハローワーク側と福祉事務所側との連携の薄さ、ハローワーク側の人員配置(ナビゲイターの不足)の問題が観察された。ただし、こうした連携が少しずつ積み重ねられていることは意義があり、地域での諸機関による総合的生活支援の仕組みに発展させる必要がある。
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