本年度は、中国の体制移行と資本市場に焦点をあて、進化ゲームの理論に照らして分析を試みることとした。本年度に得られた研究実績の概要はおおむね以下の2点である。すなわち、第1は、中国の資本市場とりわけ先物市場の発展の可能性に関する分析であり、次のような結論が得られた。「進化ゲームの枠組みに照らして判断すれば、国内市場の統合を比較的容易に実現することができ、かつ国内市場規模で均衡価格を模索することができる中国の商品先物市場の発展の可能性は、中央政府の政策としてもまた国民の選好としても、大きいと考えられるといってよい」、ということである。本研究は中国の人々のリスクに対する選好を述べ、次いでそうした選好にもとづいて進化ゲームの構造を定式化したものである。したがって、本研究の新しい視点は、進化ゲームのトゥールを用いて先物市場の機能と体制移行の成否とを結合させた点にあると思われる。そして第2点は、上海の不動産市場のバブル現象に焦点をあてることとした分析であり、得られた結論は、「中国のバブルの発生要因は東アジアモデル諸国に似通っているということ、そして持続可能なバブルが暫く続くものと考えられること、そしてバブルにどう対処するかということをつうじて中国の国家能力が大きく問われることとなる」、ということである。本研究は、日本のバブルとの比較をつうじて中国のバブルの特徴を補足し、分析を試みたものである。したがって、本研究の斬新な視点は、資本市場におけるバブル現象を、権威主義体制ならびに国家能力の観点から分析を試みた、という点に求められる。
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