2年間にわたる石油・ガスのパイプライン分析を通じて、ロシア・中東・中央アジアを中心とする地域の国家・国営企業・民間企業を考察した。分析の前提として、パイプラインを「ネットワーク型インフラ」と位置づけ、この理論的問題点を考察した。ついで、輸送対象およびその安定的確保、不完備契約、自然独占、輸送ルートと特定の第三国の排除(迂回)、競合関係、敷設・運営などの経済コストと資金調達、通行料の設定や決済の方法、技術革新などによる外部環境の変化と環境問題、権力論のアプローチに分けて論点を整理し、総論としてまとめた。ついで、石油・ガスの埋蔵量、生産量などを個別会社レベルで調べ、パイプライン分析のための基礎とした。こうした前提にたって、各論として、石油パイプラインおよびガスパイプラインについて、ロシアを中心に考察した。最後に、エネルギー外交の観点から、以上の分析を総括した。こうした分析から、欧州ではネットワーク型インフラの分離(unbundling)が進むなかで、「脱垂直統合」の動きが広がっているのに対して、資源国の多くでは、逆に「垂直統合推進」の動きが強まっていることが明らかになった。「脱垂直統合」は市場経済化を推進する動きに対応したものだが、その結果、短期指向が高まり、長期投資を前提とするパイプライン建設などにはそぐわない状況が生まれている。一方で、石油・ガス価格の高止まりを背景に、資源ナショナリズムが顕著になっており、それが資源国の「垂直統合推進」を後押ししている。これを政治的に利用する動きもみられ、経済学的アプローチだけでは現状を説明できない状況が生まれている。政治経済分析が必要な所以である。だからこそ、ここでの考察は2007年秋、『パイプラインの政治経済学』として法政大学出版局から上梓される。 2007年7月、北大スラブ研究センターで開催される国際シンポジウムでは、ハーバード大学のGoldman教授らとともに、同じセッションで、2年間の成果が報告される。 平成17年度の研究では、ロシアの石油・ガス会社の問題点、権力構造などを分析し、2006年10月、査読を経て、アジア経済研究所から『ロシア資源産業の「内部」』としてその成果を刊行した。
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