本研究の目的はライン管理職とは異なる処遇で扱われる専門職・専任職・スタッフ職と呼ばれる専門職型ホワイトカラーの需要構造と他職種との分業構造について明らかにすることにある。本年度は文献資料整理とヒアリング調査を行うことを企図したが、このうち企業ヒアリング調査については対象企業の都合により次年度に行うことになった。各種文献資料整理および研究者との研究交流をふまえて明らかになった点は以下の通りである。まず、第1に、専門職育成に関しての背景には、職能資格制度における中高年雇用者の処遇を契機としており、80年代から長期雇用システムの維持存続の工夫がなされてきたこと。第2に、専門職の範囲や活用方法に幾つかの類型化が可能であること。適用範囲が全社的なのか一部職種なのか、また、職務内容が社外でも通用する完全専門職か社内的対応が強い処遇専門職かといった区分で分けられる。第3に、完全専門職育成を志向する企業は企業内労働市場の流動性を意図しており、非正規化やアウトソーシング化の意欲も高くなっている。ただし、完全専門職の1つとみなせる企業内研究者は組織志向性が強く完全専門職処遇が一方的に労働市場の流動化を加速するとはいえない。一方で、近年の製品市場の変化、特に商品開発サイクルの短縮化によって、技術専門職のアシスタントとして、大量の企業外の専門職が企業内の専門職と協業している。そのため、企業内専門職の流動性は高まる可能性がある。最後に、処遇専門職は専門職としてのキャリア形成の位置づけが曖昧な場合が多いために職務満足度が低くなる傾向にあるが、非正規化や業績主義化はその基盤を一層不安定にしていること。以上のように、専門職育成は製品および労働市場動向と企業の育成活用方針の総和として存在することが分かった。よって、次年度においてはより詳細に同一業種の複数企業に対しての調査を設定して、その比較分析を行い専門職育成の方向性の異同を検討する。
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