本研究(平成17〜19年度)は、平成14〜16年に科学研究費補助金(若手研究(B))を受けて行なったEU大の労働移動に関連する研究の成果を基礎にし、3年間で労働移動を資本移動との関連において捉えなおすことを目的とした研究である。 研究計画に基づき、EUの関連法規および政策文書、研究書、学術雑誌等を収集・整理する作業を行ないつつ、ヨーロッパ現地における資料収集および調査から得た情報を基に年度末までにディスカッション・ペーパー等を作成することを予定していたが、研究計画開始が10月からであったことと、後期は所属研究機関における学務が立て込み、海外出張日程を春季休業期間の3月下旬にしか取ることができなかったため、年度内に成果をペーパーの形に仕上げることができなかった。そこで、今年度に得られた成果は次年度の平成18年度にペーパーにして研究雑誌に投稿したいと考えている。 ペーパーを準備する過程において得られた本年度の成果としては、次の諸点が明らかになった。第1に、経済学の理論において資本と労働はいずれも生産要素であり、両者の補完または代替効果の存在が確認されているが、EUの制度は制度的に縦割りとなっており、それらの要素間相互の代替・補完の関係はほとんど意識されていない。第2に、EUは労働と資本が自由に移動する単一市場の創設を目指すという経済自由主義的目標を掲げ、共に推進してきたわけであるが、経済理論において捨象されがちな労働と資本の間の現実の相違からEUの政策も労働と資本に関してそれぞれ異なる展開を取らざるを得ない。第3に、経済グローバル化の動きとリンクして、EU諸国が高度人材獲得競争のみならず、外国資本の獲得競争を激化させてきており、これがEUの政策に大きな影響を与えている。これらの諸点を次年度の論文に反映させたい。
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