本研究(平成17〜19年度)は、平成14〜16年に科学研究費補助金(若手研究(B))を受けて行なったEU大の労働移動に関連する研究の成果を基礎にし、3年間で労働移動を資本移動との関連において捉えなおすことを目的とした研究である。 平成18年度はこの研究の成果の一部として、「資本移動と労働移動-グローバル化する世界経済とEUの政策選択-」と題する研究論文を発表した。この論文の執筆によって得られた成果は、右の諸点が明らかになったことである。第1に、資本移動と労働移動は国家にとってもEUにとっても、それらが自由に移動する空間を定義することによって、国外または域外との間に境界を画する重要な要素である。第2に、EUはグローバリゼーションの急速な進行により、「域内」と「域外」の境界がますます曖昧になりつつある現実に直面している。とりわけ資本移動に関しては、企業がオフショアリングと対外資本投資を活発化させるにつれ、国家またはEUによる管理はいっそう難しくなってきている。他方、労働移動については、その移動規制は資本移動同様、以前より難しくなりつつあるものの、資本移動と比べて国家またはEUによる量的管理が相対的に容易である。第3に、このような資本移動と労働移動の非対称性ゆえに、国家またはEUがそのアイデンティティの基礎となる空間を画するのに、資本移動よりむしろ労働移動への規制が選択される。EUが近年EU市民のモビリティを促進しようと腐心する意義はそこに見出される。しかしながら、第4に、国内労働市場を編成する権限は依然として一義的に各加盟国にあり、EUのモビリティ促進の政策目標は、加盟国の思惑との間で葛藤を生じさせている。
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