本研究(平成17〜19年度)は、平成14〜16年に科学研究費補助金(若手研究(B))を受けて行なったEU大の労働移動に関連する研究の成果を基礎にし、3年間で労働移動を資本移動との関連において捉えなおすことを目的とした研究であった。 EU諸国においてはサービス産業の重要性が高まっており、とりわけツーリズム産業は雇用創出の観点から特に注目されてきた産業であることから、また、90年代末以降、国際的再編が大きく進んだ産業であったことから、平成19年度はツーリズム産業を取り上げ、この研究の実績として、「EUツーリズム政策の展開と課題」と題する研究論文を発表した。この論文の執筆によってEUのツーリズム政策の展開をフォローアップしながら、当該産業と欧州統合、労働移動、資本移動の関係等について右の諸点を明らかにした。第1に、欧州統合のプロセス自体がEUのツーリストとしての人の域内移動とツーリズム産業の再編と発展を促す効果を持つという点である。そしてこの効果は、これまでのところ、(1)EUが主導する様々なフォーラムやイベント、(2)EU統合によって促進された様々なビジネスその他のネットワーク、(3)EUがEU市民に提供する諸制度、(4)EUが進める拡大プロセスというチャンネルを通じて発揮されていることを指摘した。第2に、当該産業はEUが近い未来に直面する重要な諸課題-雇用の増大と職の質の向上の同時達成という新たな欧州雇用戦略(いわゆる「リスボン戦略」)目標の実現、環境問題、高齢化する人口への対応-に強い関連性を持っており、EUがこれらの課題への対処においてイニシャチブをとることができれば、国際的な取組においても先導的役割を果たすことになることを論じた。
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