研究概要 |
平成18年度においては、合理的期待モデルのシミュレーションを実行可能にするために、Anderson and Moore(1985,Economics Letters 17,247-252)で論じられたQR分解を計算するAIMアルゴリズムのプログラミング作業に取組んだ。プログラムの動作確認を試みた結果、計算効率の点で改良の必要性が生じている。特に、実際のシミュレーション分析を念頭においたより多くの変数を想定した場合には、計算効率が落ちる上、安定的に解が得られない場合もあり、実用性を高める工夫が必要となっている。シミュレーション分析に必要となる経済データ資料の整備については、産出ギャップを計算する際の自然産出水準について検討をした。具体的には、国内総生産(GDP)に関する自然産出水準の代表的な推計方法の特徴および問題点をまとめ、幾つかの推計方法について実証的に比較した。データ制約を考慮すると、統計的平滑法を利用せざるをえない。そこで、経済学の文献において頻繁に用いられる幾つかの平滑法を実証的に比較検討した。平滑化に用いるフィルターとして、これまで経済分析に用いられてきたHodrick-Prescott(HP)フィルター、Butterworthフィルター、Finite Approximationフィルター,Baxter and Kingフィルターを取り上げた。平均平方誤差(Mean Squared Error)を比較基準として採用した場合には、電気工学の分野で利用されているButterworthフィルターを用いた平滑法の誤差が低くなることが示された。さらに、このフィルターを利用すると平滑化する際のラグ数が少ない場合にも、誤差は他の方法よりも小さいことを発見した。とくに、正接(タンジェント)型の誤差は最も小さい。経済学において最もよく利用されるHPフィルターの誤差は大きいことが示された。ButterworthフィルターはHPフィルターを特殊ケース(次数が2の場合)として含むので、HPフィルターの次数設定はMSEの観点からは最適ではないと言える。さらに、フィルター処理による歪みを少なくするための制約を付加すると、HPフィルターで任意に設定される平滑化パラメータと次数は独立とならず、これまでの研究におけるHPフィルターの平滑化パラメータの設定も適切でなかったことを示している。研究成果の一部は、拙著"Time-Invariant linear Filters and Real GDP : A Case of Japan"(成城大学「経済研究」第174号、pp.29-47)に発表した。
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