研究概要 |
本年度は持続可能な発展のために必要な環境政策の政策目標に関する研究に多くの時間を割いた。 具体的には,環境汚染・破壊を克服しようとする時,それを正当化する論理について検討した。 その研究の中で,まず,ある種の環境問題が初めて問題となる時,それは事実上または明示的に合法的に存在することを明らかにした。そして,民主主義的政治過程において,社会的ルールを環壌汚染・破壊を中止・抑止させるものに変更するには,人々の心・感情を動かす公正,正義の論理が必要であることを明らかにした。 そして,人々がそう思うのは合意無き加害を不正に感ずるからであろうことを指摘した。一方,パレート改善の定義そのものが合意無き加害を禁じており,効率性を用いて,公正,正義と同様の状態を要求することは理論的には可能なのだが,効率性という言葉を用いては人々の心・感情に受け入れられるものではないであろうことを指摘した。 ここまでは,ある環境汚染・破壊が発生する時点での経済の分配状況の初期状態を肯定した,または,不問に付した上での議論であった。 次に,この分配の初期状況が不公正・不正義によって歪められているため,不当にも貧しい境遇にある人々が環境被害を受ける傾向にあることを指摘した。こうした状況は制度的に肯定されていることが多いが倫理は遡及可能であり,倫理的訴えを使うことはできるであろうことを明らかにした。しかし,こうした状況の是正は,それが困難であるがゆえに現状として存在しているのだから,困難であるが,これを肯定して正当な初期状態として受け入れることは,不公正,不正義を温存することになるので避けるべきであることを指摘した。
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