研究課題
基盤研究(C)
本研究の目的は、1990年代に経済改革がはじまって以降のインド労働市場の変化を明らかにし、その背景を考察することであった。とくに、労働改革の焦点として論争のつづいてきた労働市場の柔軟化や、また労働市場の「二極化」をキーワードに、インドにおける「雇用なき成長」の実態に注目した。具体的な研究課題は以下の4点であった。第1は、マクロデータを整理して、都市労働市場の変化と現状を明らかにすること、第2は、経済グローバル化のなかでの労働政策・制度の変化を整理することであった。第3は、フィールド調査に基づき、都市労働市場の変化を労働者側の視点から捉え直すこと、つまり労働者の社会・経済変動を個々人の労働史の変化や世代間変化から明らかにすることである。第4に、インドの労働問題を総合的かつ多面的に理解するため文献サーベイを広く行うことである。こうして、「雇用なき成長」の実態、労働政策・制度の変化、都市労働市場における雇用流動化の現実、つまり出口だけで入口のない雇用流動化や、労働市場における選別のメカニズムなどが明らかにできたと考えている。とくに本研究期間には、1991年と98年に調査してきた(もと)工場労働者について3度目の調査を実施し、インドでも恐らく類例のない長期にわたる都市労働者のパネル調査が実現できたこと、同時にその子世代の調査を行うことで、都市労働者の労働と生活における世代変動について考察を加えられたことは、本研究のとりわけ大きな意義と言えよう。インドの経済発展と貧困問題について考え理解する上で、雇用・労働問題に関するこのマクロ、ミクロ両面での研究が役立つことを期待している。なお、拡大する中間層の核となってきた「エリート労働者」の雇用・労働調査とその拡大可能性に関する研究は今後の課題としたい。
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