まず、金融規制を理論的に議論するための1つの枠として、エージェントとプリンパルの異なる利害関係から生じる問題を、両者の効用関数の差異を取り上げて分析した。効用関数に自分の効用のみではなく、他人の効用を取り入れた場合、最適な生産量が従来の研究結果と異なる結果が得られている。 「IT化」の具体的な意味と経済に対する含意を理解ため、比較金融システムに関する議論をまとめた後、日本の金融制度の変化の可能性を、巨大化と民営化の視点から検討した。日本の金融システムは、情報化、産業の構造調整、高齢化、高度成長の終焉、失業率の上昇などの経済全体の環境変化と、これまでの相対型取引を中心とした経済制度の一部としての位置づけからすると、資本市場を中心とした金融システムへの移行は少なくとも短期間ではありえない。逆に、膨大な移行のための制度設計のコストをかけるよりは、現行の銀行中心のシステムを修繕しながら、その機能と効率性を高める方向に進む戦略を選ぶ方が望ましいと言える。 ただし、その方向への進展は、過剰供給体制の解消を失業問題などの理由から、大局的には積極的に進められない制約のもとで、局所的な都市銀行の競争がもたらす効率化の成果がどれくらい働くかが要になる。幸い、製造業を中心とした高い国際競争力を持つ日本の企業が健在している。また、それらの企業は系列関係と言われる強い取引関係を形成し、相対型の取引様式をメインにとっている。こうした、好業績を実現できる日本の企業がフルに潜在力を果たしながら、結果的な負け組の処理を如何に社会的に実現するかの合意が政治的に必要な時点である。
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