本年は、主に以下3つのことを行った。第1は、産業集積形成と発展のメカニズムに関する文献レビューである。第2に、グローバルな視点に立脚し、現在、日本経済の中で活況に沸く愛知県の産業集積について分析を行った。地域経済にとってグローバル化のメリットとリスクは何であるのかを、愛知県の自動車産業を中心にまとめた。第3番目は、アジアの中で、ハイテク型多国籍企業を誘致し、産業集積形成に最も成功してきた国、シンガポールとマレーシアを取り上げ、成功の要因を分析した。その結果は以下のとおりである。 第1に、近年、確かに、空間経済学が発展し、産業集積の形成と発展のメカニズムが理論的により解明されるようになったが、「イノベーションと産業集積の関係」について、まだ多くのことが解明されていない。今後、この点でさらに一層の研究が必要であることが明らかとなった。 第2に、日本経済の中で、愛知県は単に経済が好調のみならず、2つの点で特異な側面を有することが明らかとなった。1つは東京都と同様、すでに一人あたり県民所得が高いにもかかわらず、依然、高い成長率を堅持していることである。今1つは、東京都と異なり、それが、高付加価値サービス産業への移行によって生じているのではないことである。これまで、先進国が国際競争力を維持していくためには、アメリカのように高付加価値サービス産業への移行が不可欠と考えられてきたが、愛知県の例はそれを覆す事例として、非常に興味深い。 第3に、マレーシア、シンガポールは経済のグローバル化現象を大いに活用し、主に、エレクトロニクス産業で多国籍企業の誘致と産業集積の形成及び発展に寄与してきた。しかし、多国籍企業は依然、研究開発機能の多くを本国に置く傾向があり、これら両国が今後、真にイノベーション能力を構築するためには、競争力の高い地場企業の形成が必要不可欠であることがわかった。
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