本研究では、日本、及びASEAN諸国といった途上国の産業集積にわけて、産業集積の形成メカニズムと政府の役割に関する理論・実証研究を行った。 (1)日本についての研究 (a)日本地域経済の実証的分析の結果、自動車産業は全産業分類の中でもとりわけ集積力が高いことが明らかとなった。90年代以降、日本では多くの産業において、産業集積度が低下した。その代表例が電子電機産業である。しかし、自動車産業の産業集積度は全産業の中で一番高いのみならず、それが維持され続けているのである。ただし、なぜ、自動車産業が他の機械産業以上に産業集積度が高いのか、またそれを発展・維持できるのか、今後の調査の課題である。 (b)自動車産業と異なり、バイオ産業の集積は日本では最近の現象である。サイエンス型産業はValue Chainにおける研究開発の重要性が非常に高いため、大学や公的研究施設のような科学的シーズのソースが存在することがその地域の産業集積の形成・発展に大きな役割を果たすことが明らかとなった。また、それとともに、インキュベーション施設の存在、及び、ベンチャービジネス立ち上げ初期に要するファンドの存在も欠かせないことが明らかとなった。 (2)ASEANについての研究 中国、インドの台頭がASEAN諸国の産業集積(特に製造業)に与える影響は一概にはいえない。シンガポール、マレーシアやタイについては問題が少ないと考えられるが、インドネシアやフィリピンは上記諸国と産業構造が類似しているだけに大きな悪影響が出る可能性があることがわかった。また、すでに一人当たり所得では先進国のレベルに達しつつあるシンガポールは、これまで外資主導で産業集積を成功させてきたが、バイオ産業といったようなハイテク産業においては、地場系企業や現地の人材の厚みを増すことがその形成・発展に不可欠であることも明らかとなった。
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