本研究課題に関して平成18年度においては、第一に、新制度派経済学における国家理論の検討を行った。ここでは、D.ノース、T.エッゲルトソン等の代表的な概説書を詳細にサーベイした上で、新制度派経済学における政府の主たる役割は、経済成長を最大化するための、所有権の適切な設計であることがわかった。しかし、経済学に加えて、政治学、社会学等まで含めた社会科学全体の中でみた場合、各々の分野での制度論には限界があり、確立された国家理論は存在しないことがわかった。 第二に、介護保険制度や公的扶助における財政制度の形成に関する日本とドイツの比較を行った。その結果、公的扶助や介護等の福祉政策において、地方等の福祉実施主体の目的補助金への依存が見られる日本と、一般補助金中心のドイツとの違いは、福祉実施主体の自律性を尊重する「補完性原理」の有無に基づくことがわかった。なお、日独の福祉政策における意思決定システムと財政社会学との関係についても検討した。 第三に、17年度の日本財政学会での発表を基に、学会誌『財政研究』に、論文「福祉国家とサードセクター-組織間関係の日独比較を事例として-」を掲載した。 第四に、平成18年10月にドイツ・エルフルト大学で開催された財政社会学会に出席し、討論や資料収集を行った。そこでは、ヨーロッパの財政社会学における主たる関心は、租税回避行動の形成にあることがわかった。 以上の結果から、本研究課題に関しては今後、福祉財政における日本とドイツの差異の説明に適合的な、独自の理論モデルの構築および実証が必要であることが明らかとなった。
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