我が国の医療サービスの供給サイドを海外の国々と比較してみると、診療所と病院の位置づけについて特徴的なことがある。それは、医療機関を受診しようと考える人々が、診療所のみならず、病院を直接訪問できることがある。この制度は、病気の程度の軽い患者が病院で受診することを可能にし、病院での長い待ち時間を作りだし、病院設備の有効利用を妨げているという批判を浴びている。欧米諸国に目を転じてみると、いわゆるGPシステムを採用している国々が少なからずある。イギリス、オランダなどヨーロッパの多くの国々では、患者は、病気になったら、最初にかかりつけ医であるGP(General Practitioner)を訪れ、必要がある場合に紹介状をもらい、病院に通院することができる仕組みになっている。日本のようなシステムは、患者の診療サービスの生産について、市場に任せて、分業を行おうとするシステムであり、GPシステムは、規制によって分業を行うシステムであると解釈することもできる。本研究では、日本のようなシステム、GPシステムのメカニズムを分析し、参考にしながら、最適な「医療供給システム」の性質を考察した。 平成17年度は、理論研究、実証研究の準備を行った。(1)診療所、病院に関する事前的支払い方式に関する理論的研究、実証的研究の文献サーベイを行った。(2)医師の行動、病院の行動に関する最近までの理論的、実証的研究を経済学関係のみならず医学関連まで広げて、平成16年度以降の内外の雑誌、書籍などの文献からサーベイした。(3)医師・患者関係の文献を経済学・医学関連の雑誌などまで含めて、サーベイを行った。(4)紹介制度(Referral system)に関する一連の理論的・実証的研究の文献をサーベイする。(5)本研究に関連する文脈で、契約理論、組織の経済学、情報の経済学の文献を特に平成16年度以降のものを中心にサーベイした。
|