我が国の医療サービスの供給サイドにおける診療所と病院の位置づけについて特徴的なことは、医療機関を受診しようと考える人々が、診療所のみならず、病院を直接訪問できることである。この制度は、病気の程度の軽い患者が病院で受診することを可能にし、病院での長い待ち時間を作りだし、病院設備の有効利用を妨げているという批判を浴びている。欧米諸国に目を転じてみると、いわゆるGPシステムを採用している国々が少なからずある。イギリス、オランダなどヨーロッパの多くの国々では、患者は、病気になったら、最初にかかりつけ医であるGP(General Practitioner)を訪れ、必要がある場合に紹介状をもらい、病院に通院することができる仕組みになっている。日本のようなシステムは、患者の診療サービスの生産について、市場に任せて、分業を行おうとするシステムであり、GPシステムは、規制によって分業を行うシステムであると解釈することもできる。本研究では、日本のようなシステム、及びGPシステムのメカニズムを分析し、両者の資源配分、所得分配(衡平性)に与える影響を整理し、最適な「医療供給システム」の性質を考察した。 本報告書では、第1章で、本研究の課題の位置づけを明確にするべく、日本の医療制度が抱える問題について、総括した。第2章では、問題の根源を構成する医療サービスの性質について考察した。第3章では、第2章における医療サービスの持つ性質を考慮に入れながら、病・診連携のメカニズムを経済的分業の観点から考察し、最適な病診連携のあり方について議論した。第4章では、ケーススタディーとして、オランダの医療制度改革について考察した。
|