平成18年度は、前年度にアジアEU学会で報告したFCAモデルの修正、即ち、アジアへの適用の際の欧州とアジアとの間の条件の相違に関する一層の掘り下げの作業に、一定の時間とエフォート充当した。先ず、当初の予定に沿って、初年度に学会報告の英文フル・ペーパーで一般化したFCAモデルに関する修正作業を行い、その公刊準備を進めた。特に平成19年度の出版が決定している国際金融シリーズ(有斐閣)の第3分冊『現代国際金融』の研究代表者担当章については、本研究の成果を的確に反映すべく研究分担者(田中)や他のアジア債券市場研究者との研究打ち合わせやレビューを10月に東京と名古屋で実施した。次に2006年前半以降、株式市場の世界的再編の動きが大きく進展し、アジアでの対応やアジア域内での株式市場インフラ形成の課題がクローズアップされた。本研究と深くかかわる、こうした情勢の急展開に鑑み、年度の後半では株式市場にテーマを絞り、以下の研究を重点的に行った。第1は、アジアや日本の証券市場や規制当局の対応を念頭に、EFCA(欧州金融・通貨圏)における統合株式市場インフラ形成の経験をまとめ、日本証券経済研究所にて研究者、実務家向けの講演と討論を行った。第2に、NIRA(総合研究開発機構)に対しても、同様の課題に関してアジアや我が国へのインプリケーションにより力点を置いた論文を提出した(成果はH18年度に公表予定)。さらに、研究分担者(田中)は、拡大後のEUの経済諸問題について他の代表的な日本のEU研究者との共著『ヨーロッパの東方拡大』の公刊を行った。本研究はEFCAモデルが、経済発展段階の異なる新興市場諸国にどのように適用可能なのかという問題に関する基礎研究としての意義を有し、最終年度に研究全体を取りまとめる際の重要な参照点を提供した。
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