本研究は、80年代以降の銀行配当政策に焦点をあてて配当政策のあり方が経営パフォーマンスとどのようにかかわっているかを検証し、それによって株主によるガバナンスの有効性への評価を試みた。分析のポイントを要約すると以下の内容になる。 (1)、分析の対象となった1982年度から2003年度の22年間において、銀行の経営環境および銀行自身の経営パフォーマンスが激しく変化していたにもかかわらず、銀行の配当水準は安定していた。毎年の増配減配銀行数と配当据置銀行数(無配をのぞく)を比較した結果、配当据置銀行数が増配減配現行数を下回った年は、1987年度-1991年度と1999年度-2002年度だけであった。前者は、バブル期における信用膨張の時期とほぼ重なっており、この期間において配当据置から増配になった銀行が多かった。後者は、金融不安が顕著になってから、不良債権処理が厳しく求められた時期であり、逆に、この時期においては、配当据置から減配になった銀行が多かった。 (2)、利潤最大化ではなく、規模追求が銀行の経営目的となっている。配当の増減に影響を及ぼすのは利益指標ではなく、貸出増加率である。貸出増加によるステークホルダーの利益享受は、従業員、株主、役員の順になる。この意味において銀行経営は株主よりも従業員のために行われたといえよう。 (3)、金融危機がもっとも深刻になっていた1997年3月から1999年3月までの期間においては、配当増加率は不良債権の増加率に有意に正の影響を及ぼした。この意味において配当は銀行の抱えた問題を隠す手段として利用されている。
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