研究概要 |
この研究は,公募債券市場(私募債以外の債券市場)を対象に,マーケットメーカーと投資家の行動を明らかにすることを目的としている。債券市場にはデータ入手上の大きな制約があり,制約の下で可能な限りの分析を行った。普通社債については価格や流動性に関するデータが入手できないため,格付けや債券価格指標などのデータを用いてスプレッドの推定を行った。転換権付社債についてはスプレッドの算出と併せて,売買高や転換・買入償却などのデータを用いて,マーケットメーカー,投資家,発行体の行動を分析している。債券価格・格付け・財務データにはそれぞれ別の識別番号が振られており,信頼できるデータセットの作成に時間がかかったこともあり,研究結果のとりまとめ作業がまだ終わっていないが,1.在庫モデルを前提としたシミュレーションの結果,低格付け債券のスプレッドに時期によって大きな開きがあること,2.資金繰りにゆとりがある発行体であっても一様に買入消却などの対応を取っているわけではなく,転換権付社債の買入消却行動は発行体によってかなり異なること,3.いわゆる貸し渋り等,金融機関からの借入れが厳しくなった時期とそれ以外の時期におけるマーケットメーカーや発行体・投資家の行動に相違点,について明らかになったことが成果である。今後の課題として,マーケット・マイクロストラクチャーの観点からだけでなく,投資家・発行体の保有する複雑な権利行使の関係を整理して,観察された各主体の行動について検討していきたい。
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